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月刊☆臥看牽牛織女星

15年の空白を経て宝塚観劇を再開。失われた時を取り戻すためのスカイステージ鑑賞記録をぼちぼちと綴ります。

「ヴァレンチノ」の思い出2 消えたセリフ編

雪

 

デ・ソウルの手下に
ヴァレンチノが徹底的に痛めつけられるシーン。

 

新人演出家のデビュー作、おそらく予算が限られていたであろう初演では
場末の酒場のセットでの芝居だった。

再演ではトップの退団バウ公演、予算も潤沢だったのか
豪華な高級クラブになっていた。
そして傷めつけるのが芝居ではなく
セクシーなダンスナンバーになっていた。 

でも
私は初演の時の
簡素なセットでの芝居が今でも忘れられない。

上手側が安酒場のカウンター、
なにもない下手側の暗がりが酒場の裏という設定だったと思う。 

初演のデ・ソウルはふてぶてしい面構えが印象的だった
ダンサーの、りえさん(名月かなで)
酒場の裏手で手下がヴァレンチノをボコボコにしている時
平然とカウンターに座り、ビビりながら注文を聞くバーテンに
どすの効いた冷たい声でひとこと

「キャービア」と答えるのだ。

こんな場末の酒場にそんな高級食材などあろうはずもなく
恐怖でどうすればいいかわからずに戸惑うバーテンにむかって
ダメ押しをするように

キャビアだよ。キャービア」と平然と答えるデ・ソウル。

いやぁ~怖かった~。
本当に背筋が凍るほど恐ろしかったよ~。

映画スターのヴァレンチノなる自分がいる一見華やかな世界とは正反対の
現実の自分が今いる、すさんだ場末の裏町。
ぼろ切れのようになった彼の姿と暗い心をそのまま写しとったような
冷たく乾いたシーンだった。

そして乞食から奪ったオレンジを握りしめ
再び歌う慟哭の「アランチャ」
やがて登り始めた朝日の中で
全てを失うことで虚飾の衣を脱ぎ捨てたヴァレンチノ、いや、ルディーが
本当の自分を取り戻していく。
ここは素晴らしい名場面だった。

 

もちろん
再演のダンスもとても迫力があり
ダルマ衣装の娘役は色っぽいし、
スーツ姿の男役はカッコいいし。
エンターテイメントとしても文句はないダンスシーンではあるのだけれど・・・

でも、この芝居の主題を考えれば、
ダンスに自分の気持ちを持って行かれたくはなかったかな~。
もちろん
そんな華麗なシーンを挟んでいても
再演のカリンチョ(杜けあき)、再々演のゆーひさん(大空祐飛)には
観客の気持ちをルディーの気持ちに引き込むだけの力はあったのだけれども。

やっぱり初演の演出の流れの美しさと完成度
今でも忘れがたいものがあります。

・・・みゆさんデ・ソウル(海峡ひろき)の「キャービア」を聞きたかったな~。