月刊☆臥看牽牛織女星

15年の空白を経て宝塚観劇を再開。失われた時を取り戻すためのスカイステージ鑑賞記録をぼちぼちと綴ります。

ポプラ社-少年探偵・江戸川乱歩-「明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴」

花

明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴」CS鑑賞。
もしかしたら少数派かもしれないけれど
とんでもなく好きです!!この作品。
ツボだ~~~。

「黒蜥蜴」と聞いて
三島由紀夫の脚本とか美輪明宏さんの舞台とかの
耽美的世界を思い描いた人は(おそらく大多数だろうけど)
きっと受け付けないと思う。


でも私は
明智小五郎の事件簿」と聞いて思い出すのが
私くらいの年代の人が通った小学校の図書館には必ず揃っていた
ポプラ社の少年探偵・江戸川乱歩シリーズのほうなのです。
あの頃、本棚の端から端までで読んだ冒険活劇の数々を連想させて
ほんとワクワクする。

何が好きって、まず
甲斐正人先生の曲が好き。
宝塚っぽくはないけれど、なんか血湧き肉躍るのよ。甲斐先生の曲って。
「とかげ~~~~~~♪」はもちろん
「どうか僕と、どうか僕と結婚してください♪」も好き。
告白ソングはそれこそ星の数ほど生み出してきた宝塚の歴史の中で
これほど直裁的な歌詞はおそらくなかったに違いないけど。
木村信司先生のちょっと脱力するくらいの歌詞には
ノリノリの甲斐メロディがピッタリ。
(最近の木村作品はなぜか作曲家が変わってしまって、すご~~く残念。)

それから舞台装置。
どの場面も全部好き!!
レトロなエレベータを真ん中に配したホテルのセットも素敵ですが
巨大屏風でお屋敷を表現しているのもぶっ飛んでて面白い。
それからキュビズムっぽい青灰色のビル群の背景も
分厚いカーテンのようなポッテリとした量感の真紅の背景も好き。
なかでも一番好きなのが
クジラの骨のようなアーチ状と
斜め方向にシャープに組み上げられた構造物の背後から
ボッティチェリの巨大ビーナスが覗いているセット。カッコいいわ~。
元ネタは、シュルレアリスムを代表する画家ルネ・マグリット


装置担当は大田創(おおたはじめ)さんという外部の方。
「Ernest in Love」の鳥籠もこの方なんですね。

演出も独特。
ホテルの従業員達が観客として
「黒蜥蜴正体を現す!の巻」を見上げる構図が
これまたナンセンスで好き。

それから
女中さん、書生、少年探偵団、黒蜥蜴が保護している女性、
全てにおいて同じ服装の人達が過剰な数でぞろぞろ出てくる。
もちろん、宝塚って、もともと一般の舞台より人数多めなんだけれど…
それにしたって、いくらなんでも多すぎだろ~~~~!
って思わず突っ込みをいれたくなるほど。
でも、きっと、これ、わざとなのね。
こんなおじさん窓の外にに大増殖とか、

おじさん空に大発生とか~。

シュルレアリスムには、不条理な絵がいっぱい。

まぁ黒蜥蜴が保護している女性があれだけの大人数ってあたりで
観客はこの話はリアリズムでないことに気がつくとは思うのだけれど。
 
かぎりなく現実に近い異世界。
まるで夢の中を覘いているような現実感。
しかし、宝塚ファンにそんなシュルレアリスムの世界観が好きな人が
どれほどいるかは、はなはだ疑問ではある…。
ロマン主義とか耽美主義の展覧会を見に行ったら
人を不安な気分に陥れるへんてこりんな絵ばかり並んでいた。
みたいな感じだもんね。
この舞台観て、激怒した真面目な人、
もしかしたら多いかもしれない。

宝塚はショーは、ほぼすべて、
そんな夢の中を覘いているようなイメージで作られているんだけどな~。
芝居のほうだと、なぜだかみんな、ある程度のリアルさを求めるよね。
でもシュール好きの私にとっちゃ
こりゃ、たまらん舞台だわ~~~。
もし、その頃、宝塚観劇をしていたら、間違いなく通うわ。
 
先月観た上田先生の「金色の砂漠」は
まったく架空の砂漠の国の異世界を緻密なセリフで構築。
作者の思想や主張は廃し、物語世界のみを劇的に描いていた。
一方でこの「明智小五郎の事件簿」は
身近な日本の昭和時代を描いても、どこか不条理で現実離れしている。
その上、作者の思想や主張の押し付けによって
観客が物語に入り込むのを阻害してしまうところさえある。
まったく正反対の作品なんだけれど
でも、そのどちらも大好きなのよ。
 
演出家が違うとはいえ、同じ劇団の作品のテイストが
こんなにも違うことって
他の劇団ではありえないことだと思う。
作品のバラエティに富んでいるところが宝塚の魅力。
名作・迷作、等しく愛おしい
 
出演者では
同じ外見なのに、
令嬢早苗のふりをしている葉子
素の葉子
黒蜥蜴が変装した令嬢早苗
と実質3役を演じ分けたすみか(野々すみ花)が凄かった。
娘役がこれほどの演技力を要求される役を演じさせてもらう機会って
男役優先の宝塚の世界ではなかなかないんじゃないかな。

それから、いちか(桜一花)の演じた悧発な小林少年。
ぷぅっと頬を膨らませた表情も
弾けるように走る姿を表現したダンスも
何もかも、もう、反則なくらい可愛い!!
とはいえ黒蜥蜴には、たしか乱歩の原作にも三島の戯曲にも
小林少年は出てこなかったはず。
ということで、この宝塚バージョンはやっぱり
ポプラ社の少年探偵・江戸川乱歩シリーズをイメージして創作されている
ということなんだろうなぁ。
こんな可愛い小林少年を見られたのだからポプラ社に感謝です~。

黒蜥蜴のあやね(桜乃彩音)も大健闘。
日本的な大人びた顔立ちに聖少女な中身という
彼女ならではのアンバランスな個性が生きていたと思う。
男装もソフト帽から覗いた顎のラインが
なかなかシャープでイカスわ~。(この舞台ってレトロな死語が似合うわね。)

そして
おさ(春野寿美礼
男役発声を超越した自在な歌声。
なんだか、もう今まで聞いたことがない
神秘的な音色の不思議な楽器のような響き。
いや、存在自体すら、なにもかも超越した感じ。
まさに、シュルレアリスム(超現実)。
下級生時代をずっと見てきた人だけど
お披露目の「エリザベート」以外
トップ時代の舞台は観ていないので
こういうトップになっていたとは…知らなかった。
だれも、何も寄せ付けない孤高のトップスター。
そんな感じがする。 
 
シュール過ぎて観客に大激怒されたんじゃないかと思った作品がこちら。