月刊☆臥看牽牛織女星

15年の空白を経て宝塚観劇を再開。失われた時を取り戻すためのスカイステージ鑑賞記録をぼちぼちと綴ります。

強い瞳のヒロイン「ひかりふる路」DVD鑑賞2

雪

ロベスピエールが心惹かれたのが架空の人物、まあやちゃん(真彩希帆)が演じたマリー=アンヌ。

といっても、マラを暗殺したシャルロット・コルデーロベスピエール暗殺未遂のセシル・ルノーに想を得たようです。
凶器を二本所持していたのもこのセシル・ルノーのエピソードによるもの。
こんな大立ち回り、娘役ヒロインとしては珍しんじゃないかと思います。

もし、昭和の宝塚がロベスピエールを描くとしたらヒロインは史実どおり下宿先の娘になったかもしれませんね。
今回はりさ(星南のぞみ)が健気に演じていました。
しかし「いつまでもお待ちしてます」って後ろ姿を見つめられても、朴念仁のだいもん(望海風斗)ロベピが気づくはずもありません。

一方、まあやちゃんのマリー=アンヌは
自分の目でみて、自分の頭で考え、行動することができる女性。
まあやちゃんは意思を持った賢いヒロインがとても似合います。

マリー=アンヌを送るポンヌフの場面で「刹那に見つめ合った瞳の強い光」に心震えたとロベスピエールが歌っていますね。
それは殺意の光であったわけだけれど、やっぱり彼女がなにかに依存し運命に流されるままではない、意思を持った女性であるということを感じ取ったのでしょう。

それからこの歌の最後のマリー=アンヌの「あの人の瞳に映った私はひどい顔をしていた」というセリフ。
一片の曇りもない澄んだ瞳に殺意にとりつかれた自分の姿が映っていたのね。
ロベスピエールの清廉な瞳の美しさが直接的な言葉ではなく表現されていてとてもうまい脚本だなぁと思いました。
この言葉でマリー=アンヌも同じ瞬間にロベスピエールの瞳に惹きつけられたのだということがわかる。
ここから広がる同じ強さで引っ張り合うような緊張感のある男女関係。

今、観劇しているほとんど女性は何らかの形で仕事を持っていると思うし(仕事のストレスを宝塚で晴らしてるところもあるからね~。)運命に流されるまま待ち続けるヒロインより、自ら運命を切り開いていくヒロインのほうが感情移入しやすいかもしれません。


ヒロイン像だけでなく娘役歌唱についても、とても今時のミュージカルという感じがしました。

私が宝塚を見始めたころ、娘役はビブラートをたっぷり効かせた歌い方でしたっけ。みと組長(梨花ますみ)の歌にそんな感じがまだ残ってます。
でも今は真っ直ぐ声を伸ばすノンビブラートのほうが主流。
さらに近年では宝塚のヒロインでも外部のミュージカルのように地声を使って歌う曲がちらほら出てきました。

ただヒロインが地声で歌うとなんだか素人のカラオケみたいになっちゃったり、甘ったるいアニメ声になってしまうことが多かったような気がするのよ。
地声を張り上げるのではなく胸に響かせるような力強い発声で歌うというのはとってもハードなのだろうなぁ。
男役ならそれを10年近くかけて追求していけるけど、ヒロインの娘役は男役よりもずっと若く、かつ男役よりもさらに高い音域で歌わなければならないのだもの。大変です。

その上、このマリー=アンヌという役では感情を喉元に溜め込んだり、あるいは爆発させたりする芝居を連日公演するわけで、さすがのまあやちゃんも私が観たときには喉が少し荒れているようでした。
歌よりむしろセリフで喉がやられちゃうんだよね。
でも、いつものまあやちゃんの喉全開の声を知らない人だったら、本調子でないことには気が付かなかったかもしれません。

なにせ普通だったら男役さんに寄り添うように歌うであろうデュエット曲ですら一筋縄ではいかない曲なのですもの。

素晴らしいデュエット「今」のハモリ部分
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え?そこのハモリ、下がっていくの?
と、びっくりしたところ。

地声風味の裏声?「荒れ狂うあ
力強く響く胸声。  らしの中を
クリアな頭声。    恐れず行こう」
かな?
でもどこでどうやってチェンジをしてるのかはよくわからないわー。
とにかく頭声と胸声をいったり来たりでかなり力強い曲。
この中音域を地声で歌わざるを得ない裏声の幅が狭い娘役さんもいるだろうけど、まあやちゃんは多分強めの裏声でもどちらでも歌えるので、わざわざ胸声で歌うことを選択してるわけだよね。

裏声で歌えばクラシックになっちゃう。その方がいかにも宝塚の娘役さんらしいけど、これは歌入り芝居ではなくミュージカルなので、よりセリフに近い感情が歌に込められる歌唱法が求められたのじゃないかしら。
二人が心を通わせ始めるデュエットとはいっても、そこには葛藤が隠されており、ロマンチックで優しいばかりの曲ではないのだ。

この「今」というデュエットは芝居のラストでも歌われます。
最初のデュエットでロベスピエール 初めて見た笑顔を「もう一度見せてほしいんだ。」と歌うのだけれど、最後のデュエットでは処刑直前に最期に笑顔を「もう一度見せてほしいんだ。」と歌っているわけで、歌詞は同じなのに、意味合いが全く違ってくるのが、素晴らしいなぁって思うの。
生田先生の言語センス、繊細で好きだな~。


おっと、話を歌唱に戻そう。
さらにさらに
二人の想いがぶつかり合うデュエット「焦燥と葛藤」に至っては、まあやちゃんは胸声でものすごい高音を出してます。
「愛した人を殺すなんて できないわー」のところ。
うわわわっ!ファだわ!!
男役の地声最高音のシ♭を遥かに超える!
(ちなみに地声の範囲が異常に狭い私はこの1オクターブ下のファですらケロります。)
ベテランシンガージェンヌさんならいざ知らずクラシカルなソプラノ裏声歌唱がメインのヒロインにこんな凄まじい歌を課すことは、宝塚ではまずないことだと思います。

それを毎日歌いこなすまあやちゃん。スゴイわ~~~!
いやスゴイを通り越し て恐ろしいわ~~~。
とはいえ、まだ経験が浅く、力の入れ具合も肩の力の抜き加減もわからないまま、ひたすら全力でぶつかっていくまあやちゃん。
うっかりすると男役を吹き飛ばしかねない威力があるのだけれど、それをしっかり受け止め、さらにはコロコロと手のひらで転がすことができるだいもんって、ほんと素晴らしい!
もしかして相手役がだいもんでなければ、まあやちゃんはトップ娘役にはなれなかったかもしれない。あわわわ。
ありがとう!!だいもん!感謝します!!


ヒロインのキャラもその歌唱方法も、これまでの宝塚らしいロマンスとは色んな面で趣が違うけれど、とても惹き込まれました。
大好きな作品です!