月刊☆臥看牽牛織女星

15年の空白を経て宝塚観劇を再開。失われた時を取り戻すためのスカイステージ鑑賞記録をぼちぼちと綴ります。

さよならは言わない「哀しみのコルドバ」

星

どうしても受け入れることができずに、ずっと書くことを避けていました。
なぜこんなに早く。なぜこんなに突然に。
ミネちゃん(峰さを理)との別れが来てしまうだなんて、信じられないし、信じたくない。
宝塚を見始めるようになって初めてトップ就任からサヨナラ公演まで見届けた人だった。あの頃、一番好きな花組とともに星組もたくさんたくさん観に行っていました。

それから初めて一階一列ドセンターで観劇したのが星組でした。
ショーの時に銀橋で歌うミネちゃんの強い視線に完全にロックオンされて身動きができなくなったっけ。今でもあれは私一人にむけて歌ってくれたんだと思ってる。
おそらくもう二度とあんな席に座る機会はないでしょう。ただ一度きりの貴重な経験です。
まだ若かった私はミネちゃんのまっすぐな瞳と歌の迫力に完全に気圧されてしまって、それ以後は二階で、いや当時は三階で観劇するようになっちゃったんだけどね。

あの時、あの瞳にじっと見つめられた時、ミネちゃんは揺るぎのない自信がある人なんだと思った。
そりゃトップスターなんだからそんなの当たり前といえば当たり前なのかもしれないけれど。でも当時の他のトップスターさんとはちょっと違う気がしたの。まぁ、はっきり言ってしまうとペイさん(高汐巴)と比較してなんだけど。ペイさんっていたずらっぽい目をしてたから〜。

ミネちゃんは芸に厳しく、だからたぶんまわりに対する要求もすごく高く、そしてそれ以上に自分自身に対して一番厳しい人だったんだと思う。
高い能力を持っていながらそこからさらに人一倍の努力をする人の目。
私のような甘ちゃんじゃぁ、とてもじゃないが視線を返すことなんて出来なかった。
そんなミネちゃんがトップの星組の観劇って最初の頃は見てて肩の力が入っちゃうところがあったのよ。
それが変わったのが「哀しみのコルドバ」でした。

人々からグラン・エリオと称賛される偉大なる闘牛士
芝居の前半は人妻に恋をした後輩に人として闘牛士としての矜持を説くような優等生のリーダー。いかにもミネちゃんらしい堅さと圧を感じさせる誇り高き闘牛士エリオ。

しかし初恋の人との再会によって変わっていく。
お互いに婚約者やパトロンがいる世間的には許されない恋だ。
教会で密会する二人のやり取りからミネちゃんの歌への流れが繊細かつ官能的で胸がドキドキしたっけ。
この時のミネちゃんの歌にものすごく心が震えた。
ミネちゃんと言えば気持ちよく伸びる艶のある声でいつも朗々と歌い上げる感じでしたが、この「コルドバ」のときは少しハスキーだったんですよね。
だから歌い始めた時の声がちょっと優しくかすれていて、それがずっと心の奥に押し込めていた想いが絞り出されたような、ものすごく切ない感じで。
痛みと苦しみと、そして抑えきれない恋心が一気に溢れ出てくる場面だった。

もちろん名曲「エル・アモール」も大好き。
初演の時はエリオ、エバ、アンフェリータの3人の歌でした。
ロメロは副組長のカメさん(新城まゆみ)が演じていて、歌はなくとも芝居だけでも存在感がありました。
三人だけの「エル・アモール」は対抗軸であるロメロが出てこないので曲の展開が早く、急激に深い恋の淵に落ちていくような感じがより出ていたと思います。
エバを演じたツッツさん(湖条れいか)の色っぽいんだけど純粋で楚々とした佇まいが美しくって、アンフェリータのマイマイ(南風まい)の気丈さに隠れたかすかな不安がいじらしくって。そんな二人に挟まれたエリオの苦悩が切なくて。
柴田作品ならではの男の弱さを演じるミネちゃんが見せた色気に一気に引き込まれたっけ。
確かな実力と艶やかさを兼ね備えた力強いトップスターだった。

退団後も日本物の振付けや指導ができるOGとして宝塚に関わってくださっていました。
日舞の素養がある人がさらに少なくなっていく現状において、これから益々大切な役割を担うことになるだろうと思っていたのに。
ミネちゃんはきっと毎日悔いなく全力で過ごして来た人に違いないけれど、それでも、これから出来ること、やりたかったことがたくさんあったはず。
それがこんなに早くすべてが奪われてしまうなんて、どんなに悔しかったか。
本当に考えるだけでやりきれなくて、どうしてもまだお別れを認めることが出来ずにいます。

愛しのグラン・エリオ様
あの時と同じように何も言わずに突然逝ってしまわれた。
でも、さよならは言わない。
だってあなたの勇姿は永遠に心に刻まれているから。