月刊☆臥看牽牛織女星

15年の空白を経て宝塚観劇を再開。失われた時を取り戻すためのスカイステージ鑑賞記録をぼちぼちと綴ります。

本日「Hotel Svizra House」LIVE配信

宙

とてもとても見たくて配信を楽しみにしていた舞台だけれど、無観客となってしまった。
遠征できない身にとって、もちろんLIVE配信は本当にありがたいです。
でも、それはあくまで、たくさんの観客が舞台を見つめているその状態をちょっとだけ覗かせてもらっているっていうスタンスなんです。
映像だけでは見えないところがたくさんあるけれど、今この瞬間、劇場ではたくさんのお客さんが息を詰めて舞台の隅々を見つめ、笑ったり泣いたり、そして拍手をしている。それを知っていればこそお茶の間で映像を見ていられるのよ。
まあやちゃん(真彩希帆)のSPECIAL LIVEはディナーショーのプライベート感があってまだ大丈夫だったけれど、劇場での無観客は辛い。これほど辛いとは。

それでも舞台は素晴らしかったです!

第二次世界大戦中の中立国スイスの高級ホテル。秘密を抱えながらも表向きはエレガントに振る舞う美しい富裕層の人々。
くゆる紫煙。レトロでお洒落なファッション。
ちょっと英国のテレビドラマみたいな感じじゃないですか?アガサ・クリスティの名探偵ポアロとか。あれ大好きなんですよね。

スパイキャッチャーゆりか氏(真風涼帆)とバレリーナかのちゃん(潤花)

三つ揃いにロングコート。ハットにタバコ。もう痺れるほどかっこいい!
大人の包容力と色気にあふれるゆりか氏と大柄で華やかなかのちゃんのコンビネーションはバッチリですね。
かのちゃんは「ハリウッド・ゴシップ」同様、才能あふれる表現者の役どころ。心弱い部分もありながらも自立型の女性であるところがゆりか氏との新たなコンビの形を感じさせます。
NEW WAVE-雪-」の時に見つけたかのちゃん。それ以来、将来は宙組でキキちゃんの相手役にって密かにおもってました。確かハリゴシの感想にちらっと書いたっけ。
こんなに早々にトップ娘役とは思わなかったし、まさかゆりか氏の相手役とは予想外だったけれど、やっぱり長身スタイリッシュな宙組にピッタリだった。
フィナーレのデュエットダンスのリフトがダイナミック。これもこのコンビのウリになるね!
次回大劇場公演が楽しみだわ。

「アナスタシア」に続いてキキちゃん(芹香斗亜)は対抗軸

といっても1幕は誰もが何かを隠していて怪しい人だらけなのでアナスタシアのように最初からガッツリ対抗軸というのではないのですが、1幕終わりで彼が敵側のスパイ・ウィリアムテルであることが判明します。
そうよ!絶対そうじゃなくっちゃ!
バディのまかキキも好きだけれど、トップと二番手が対決っていうのがやっぱり滾る!
そして、この芝居の面白さは誰がウィリアムテルなのか?というフーダニットの謎解きではなく、なぜ彼がウィリアムテルなのか?というホワイダニットであることだと思います。推理小説でもこういう系統のほうが好みなのだ。なぜそこに至ったのかという心情が丁寧に描かれた作品が好き。

キキちゃんが素晴らしいのよ!
彼が愛するのは音楽、芸術ではあるだけれど、何よりも愛しているのはその芸術を生み出す人。
そしてその芸術家を愛する人
ユダヤ人ピアニストのしどりゅー(紫藤りゅう)を見つめる瞳。彼を愛する艷やかな美女ららちゃん(遥羽らら)を支え包み込む優しさ。
なんて美しい男なんだろう。
愛するがゆえに禁欲的になる男の生き様って大好物なのよ~。

そんなキキちゃんとの対比となるのがずんちゃん(桜木みなと)

前半はなぜかずっとイライラしています。
でも愛する人が無事そばに来た途端、もうニッコニコ。
すっかりリラックスして仕事も充実。
もちろん彼とイチャイチャすることを隠したりもしません。
彼氏を演じた人が誰だかわからなくって(最近宙組詳しいって自負してたのに~)終演後、ホームページで確認。
105期の泉堂成くんだったのね。まだ若いのにちょっぴりヤバイ色気のあるイケメン。劇場にいけなくなって1年以上経つとどうしても若手が覚えきれないわ。

ホワイダニット、なぜ彼が

そんな素直で真っ直ぐなずんちゃんの愛に比べて、キキちゃんの愛はとても複雑だし、とても苦しいものでもあります。
かつて音楽を目指した彼を圧倒的な芸術性で打ち負かした男でもあるピアニストしどりゅーへの愛。
傍から見ればとても静かなのに内側では激しく燃える、それは命をかけるほどの愛なのね。
そのピアニストを愛するららちゃんを愛するのも、芸術を生み出す他の才能ある人達を救いたいと情熱を燃やすのも、その愛の強さと苦しさ故だったのかもしれません。
芸術家たちを救うためナチスに情報を流すスパイ・ウイリアムテルとなるキキちゃん。
愛のために他の人間の犠牲をいとわないエゴイストな面があるのもまたすごくいい!
愛も芸術もエゴイズムとは切り離すことができないと思うの。

そしてもう一つ用意されている謎解きがウィリアムテルが実は過去にもう一人いた事。
しかも女スパイってところが痺れる!
敵国の女スパイにそれは破滅を招くとわかっていながら溺れてしまったさおさん(美月悠)。イケオジの苦悩をほとばしらせていてよいわ~。
スイスにわざわざ来るなんて絶対怪しいとは思っていたけれど、こういう背景とは思わなかった。
キキちゃんもさおさんも、人の心のどうしようもなさや苦しさを見事に表現していて、彼らがなぜそこに至ったのかという心情がずんと伝わりました。

善悪じゃなくて

戦後の映画や舞台などの常として、枢軸国は悪・連合国は善。ナチスは悪・レジスタンスは善。と描かれる事が多いのだけれど、この作品はちょっぴり切り口が違っていました。
そりゃぁもちろんナチスの所業は非人道的で許されないことだけれど、その中の1兵士など、もともとは戦争さえなければ田舎で平和に暮らしてたはずの心優しい青年なんだよね。よく考えてみれば当時、悪人になろうと思って鉤十字を身につけた人なんかいないのだ。それが時代の恐ろしさ。
「彼はドイツ人。だけどいい人」って歌うさーちゃん(春乃さくら)の歌声が清らかで、その表情も恋する喜びに溢れていてとても素敵だった。このフレーズ、今もずっと頭の中で歌ってる。大好き。
彼のドイツ人兵士が誰かがわからずにあとで調べたら、またしても105期生。聖叶亜くん。感じの良いイケメンです。
この二人の雰囲気が素直で優しくって。もう、この役にさーちゃんを配したのって大勝利!
彼女にバレエの主役を譲ったかのちゃんが、親友であるけれども怪我で踊れなくなってしまえばいいのにって、つい願ってしまうところも、人の心のリアルを描いていてとてもよい。でも本当にそうなってしまうなんて。
二人がレジスタンスに襲撃され、足に大怪我をしたさーちゃんが死んだ彼に歌いかけるシーンが切なすぎてポロポロ泣いてしまったよ。
この作品が単純に善と悪を切り分けた悪者探しではない人間ドラマであることがとても好きです。

だけど大切にしたいもの

もちろんこの作品の登場人物が芸術をこよなく愛することができるのも、食うに困らぬ富裕層であるがゆえです。
私だって15年もの長い間宝塚観劇を離れていたのは、そこにリソースを割けぬ理由が多々あったわけで…。
芸術は生きるために必要不可欠って言われたってそれが響かない大変な状況の人は今この世にたくさんいるでしょう。
こうやって配信を見ることができるっていうだけで恵まれたほうなんだろうな。
無観客とはいえLIVEでパフォーマンスを発信できる宝塚は他の劇団に比べたらまだ恵まれているのかもしれません。
だからその立場から声高に芸術が、劇場こそが人生だ!って言われるとちょっと鼻白んじゃうところも無きにしもあらず。
でもね。それでもやっぱり劇場は大切!
無観客配信を見てつくづく思った。
どんなに好きでも、どんなに才能があっても、バレエダンサーと同じくタカラジェンヌも一生続けられる仕事ではない。そんな短い一期一会の一瞬一瞬を同じ空間で共有する。その尊さ。
これは本当に大切にしたいの。
スターさんから最下級生までその躍動する姿を生で目に焼き付けられる機会を奪われるのはあまりに辛い。
もちろん今私は遠征出来ないし、人流を抑えなければならないことも理解できる。
それでもどうかどうか劇場の灯を消すことがもう二度とないよう今はひたすら祈るばかりです。