月刊☆臥看牽牛織女星

15年の空白を経て宝塚観劇を再開。失われた時を取り戻すためのスカイステージ鑑賞記録をぼちぼちと綴ります。

懐かしくて新鮮「ヴェネチアの紋章」

雪

幕開きの新演出で水の都ヴェネチアを象徴するような青い影のダンスがあるのがとても美しかった。そしてその中にるいくん(眞ノ宮るい)がいるのを発見した!動きでなんとなくわかるんだな〜。その後も折にふれ色々な人が青い影となって踊ります。その流麗な動きは水のようであり運命のようであり。このあたり謝珠栄先生らしいわ。

曲がまるっと変わってる

でもよく聞くと歌詞はほぼ同じです。
初演は華やかな歌と踊りでの幕開き、そしてラストもやはり明るい祭りのなかで終わる。なのに彼らはもうこの世にいない…。という構成だったと思います。
今回の幕開きの曲は短調になっていますね。まるで水面をたゆたうようなとても綺麗な声のソロが聞こえてきます。誰が歌っているのかな。この物語の悲しい結末を象徴しているみたいです。
そして朗報です。「クェックェックェ~~~クェクェッ」の歌はありません。
ちょっとホッとした~。

黒髪ロン毛の野心に燃えるさきちゃん(彩風咲奈)

思ったとおりのかっこよさ!
あんなにロングブーツが似合うってどんだけ足が長いんだ。
陽タイプで御曹司育ちのさきちゃんが庶子ゆえの鬱屈とか秘密の大人の恋をどう表現するんだろうって思ったけれど初演とは少し趣が違う役作りでむしろ良かったです。

初演でアルヴィーゼを演じたなつめさん(大浦みずき)は翳りの似合う個性の人だったのにトップの時のお芝居は意外にも完全無欠のヒーローばかりだったんですよね。だからこの「ヴェネチアの紋章」でもちょっとそんな感じがありました。
アルヴィーゼの敗北がそれが破滅とわかっていながら自らの意志で突き進んだ結果の悲劇ではなくて「トニーのやつがしくじった」案件になってしまったことが実はあまり私好みではなかったのです。
しくじったのはりかちゃん(紫吹淳)でしたよね~。今回はもっちー(望月篤乃)が演じていたトルコ兵がハンガリー人司教の捕縛をしくじったがために窮地に陥るという感じが強かった。んもう、りかちゃ~~~~ん。って思った記憶。

だけどトップスターのスタートを切ったばかりのさきちゃんなので少し等身大の青年に感じられたのかもしれません。
破滅の予感を感じ取る表情をふと見せながらも愛ゆえにどうしようもなく突き進んでしまう情熱的な青年の悲劇になっていてとても良かった。
それに歌も響く良い声が出ていましたね。このところずっと昔の新人公演を見続けていたのでさきちゃんのものすごい成長を感じました。
トップスターとして素晴らしい船出を切ったさきちゃん。ますます期待が高まります。

たおやかなきわちゃん(朝月希和)

きわちゃんがセリフを言った途端、キャルさん(ひびき美都)の面影が脳裏にぶわ~~~っと蘇って涙がこみ上げてしまった。
声が似てるとかそういう意味じゃなくて、貞淑な佇まいのなかに激しい情熱を秘めたリヴィアという女性の生き様が乗り移ったような感じ。
きわちゃんさすがだ。芝居に情感がある。
そしてヴェネチアに戻る船の甲板に立つきわちゃんの美しさ。
悲しさと幸せがないまぜになった表情。船から身を躍らせる白い蝶のような残像に初演の思い出が重なってまたまた泣いてしまった。
しかしマスクで泣くと涙が拭えないから困るね。マスクがぐしょぐしょになっちゃったよ。替えマスク持っててよかったわ。

優しいマルコあやな(綾凰華)

ヤンさん(安寿ミラ)が演じた1回こっきりの2番手役。
ヤンさんはもちろん若手ホープの一人ではあったけれど役替りでのオスカル以外はそれまでの役のほとんどが数人口での仲間というパターンでした。
それがマルコ役では主人公の親友兼ストーリーテラーでまぁセリフをしゃべるしゃべる。
でもね。このマルコ。コンスタンティノープルに行ったりヴェネチアに戻ったりするんだけど結局何の役にも立ってないんだよね~~。
しかもラストに恋人が実は敵国スパイってこと明かされるし、なんだか踏んだり蹴ったり。
ヤンさんってちょっとシニカルな芝居のセンスがある人だったので、この事実を知らされた時のしてやられたっていう表情がうまかったなぁ。人生の皮肉って感じかな。
それにアルヴィーゼのこと心ではなんとかしたいと思っていても、頭ではどこか冷静にみてるとこあったよね。
あやなちゃんはシニカルでクレバーなヤンさんとはまた違った役作りで新鮮でした。
本当に心から誠実で優しい友。
少し悲しげな面持ちがこの役に新たな生命を吹き込んでいました。
ラストに初演とは違うオチが付け加えられていたのですが、それが優しいあやなちゃんにとても合っていたわ。

まなはる(真那春人)さすがだ

そういえばメロディーが変わっているだけで話の流れは同じ感じでした。もうちょっとテンポがよくなるように説明的なところは変えたってよかったと思うんだけど。
まぁ当時の政治状況を入れないと最終的になぜアルヴィーゼが追い詰められるのかがわからなくなるからしょうがないのか。
物語がちょっと硬質になるのは塩野七生さんの小説の特徴にもつながる感じはあります。
政治的説明部分を担っていたのがまなはるやCDXの若手の面々。
CDXのれいな(琥白れいら)、りんと(稀羽りんと)はすごい頑張りだったね。
芝居の上手いイブラヒムのたっちー(橘幸)、大使のあきちゃん(叶ゆうり)はもちろん、みんな口跡が明瞭でわかりやすかった。
なかでもまなはる!アルヴィーゼの父でもあるヴェネツィア元首。
ヴェネチアは援軍を出せない
というセリフの重みと苦しみが素晴らしかった。声にやや軽さが出てしまう初演のまやさん(未沙のえる)より好きかもしれない。

はぐれ組の三人

そんな硬派な芝居が続くなかのホッコリタイムがすわっち(諏訪さき)、るいくん、あみちゃん(彩海せら)のはぐれ組です。
すわっちはさすがのリーダー。
しっかり者で二人を引っ張っていく感じ。歌も芝居も見てて安心。
一番なんにも考えてない感じのチャラさだったのがるいくん。
心も体もとっても身軽なのね。ひょいひょいと新しい状況に乗っかっていく。
はぐれ組っていう彼らの境遇をとてもうまく体現しています。
表情も豊かで見てて楽しい。それでいてシュッとかっこいい。
帽子からはみ出たクルクルの前髪も個性的だし、着こなしにも芝居にもセンスの良さを感じるわ。
あみちゃんは最下級生だからヘタレ末っ子的な役作りで来るかと思ったてたら意外に男っぽい。
暗めの髪色のせいでしょうか、なんとなくルコさん(朝香じゅん)と似ているような。と、いうことはだいもん(望海風斗)に似てるってことかしらん。

ペアを組む女性陣ゆきのちゃん(妃華ゆきの)、りさちゃん(星南のぞみ)、ありすちゃん(有栖妃華)とのバランスもそれぞれぴったりだった。
みんな綺麗だったり可愛いのに精神的には女性上位。ちょっと強めなところが好きだあ~。

愛らしい二人

もうひとつのホッコリタイムが従僕カシムとメイドのヴェロニカ。
初演のみはるちゃん(森奈みはる)の早口が可愛くって~~。大好きな場面だったのよ。
今回のヴェロニカはりなくるちゃん(莉奈くるみ)。愛らしい!
みはるちゃんほどの早口ではないけれどカシムを思う気持ちが溢れていてこの子絶対いい子!
そしてカシムはいちかっち(一禾あお)。
もちろん初演を見てるからこのあといったいどうなるか話の内容だって知ってたわ。
なのにアルヴィーゼに訴えるところ、わかっていたのにめちゃくちゃ泣かされた~。
あーさ(朝美絢)のブリドリを見てお芝居が好きなんだろうなとは思っていたけれど本当に上手い。
力強さがあって、でも自然体でものすごく気持ちが伝わる熱演でした。

海のモレッカ

この「ヴェネチアの紋章」はなつめさんのサヨナラ公演ではありますが、作品的に名作か?と言われればそうでもないかもしれないです。
でもこの作品を忘れがたいものにしているのが序盤で踊られるモレッカなんですよね。
この演目が発表された時、仮のタイトルは「ヴェネツィア・海のモレッカ」でした。それほどにあのモレッカのダンスは作品の中心だったのです。

静かに禁欲的に始まりながらも鈴の音の高まりとともに次第に熱を帯び激しく官能的になっていくモレッカ。
その素晴らしさは初演の名倉加代子先生の振付となつめさんとの相性の良さによるものだと思います。
なつめさんの都会的な雰囲気を最大限に引き出すシャープでエレガントな名倉先生の振付。
この組み合わせはどんな作品でも最強でした。
今回は演出の謝先生の振付で当時とは違っていたと思います。
さきちゃんと謝先生の振付の相性の良し悪しはわからないけれどもこのモレッカだけは初演の感動を越えられなかった気がします。
でも豪華ですごく重たそうなドレスを美しく翻して踊るきわちゃん、かっこよくリードするさきちゃんは眼福でした。

終盤の戦いのダンスはさすが謝先生です。男役のかっこよさ全開でした。謝先生ってこういう戦闘系の振付が上手い!
しかもさきちゃんを始めとしてみんなダンス巧者ばかりだもん。前半では極楽トンボだったはぐれ三人組もすっかり凛々しくなってたし。
さきちゃんのプロポーションの美しさを最大限に生かしたダンスはダイナミックで悲壮感あふれてて本当に素晴らしかったです。